山口・宇部1泊2日の旅

サイクルスポーツに力を入れていると聞き、以前から気になっていた山口県。とはいえ土地勘はほとんどなく、思い浮かぶのは下関くらい。それでも、まだ知らない景色や道が広がっていると思うと自然とワクワクしてくる。未知だからこそ、自分の足で確かめてみたくなった。今回は新山口駅を起点に瀬戸内アドベンチャー輪道へ。
エヴァンゲリオンの世界観が息づく宇部の街と、瀬戸内海を望む穏やかな道をつなぐ旅。その一日をレポートでお届けする。
※本記事は中国地方知事会サイクリング観光振興実行委員会の提供を受けています。
前泊で整える、山口ライドのスタート

東京から新幹線で前日のうちに新山口駅へ。乗車時間は約4時間30分と長めだが、空港までの移動や手続きを考えると、新幹線のほうが気楽。結果的に、移動も含めて余裕のある選択となった。

ライドに不要な荷物は、前泊した新山口駅前のホテルアムゼ 新山口で、チェックアウト後も預かってもらえたため、身軽な状態でライドに出発できた。荷物の有無で快適さは大きく変わるので、こうした事前の段取りが意外と重要だ。
瀬戸内アドベンチャー輪道をアレンジ
今回走るのは、「瀬戸内アドベンチャー輪道」をベースに一部アレンジしたルート(約75km)。
新山口駅をスタートし、途中でお茶園に立ち寄りながら反時計回りに宇部市方面へ南下。その後は瀬戸内海沿いを北上し、できるだけ国道を避けながら新山口駅へ戻ってくる周回コースとなっている。

走り始めて10kmほど。まず最初に立ち寄ったのは、山口の自然とお茶文化に触れられる 藤河内茶園だ。入口が少し分かりにくく、迷いながら進んでいると、ふいに視界が開ける。目の前に広がったのは、一面に続くお茶畑。

藤河内茶園は、一か所あたりの茶畑面積が西日本最大級で、東京ドーム約8個分とも言われる広さを誇る。山あいの寒暖差と霧、清らかな水に恵まれ、茶葉をやわらかく育てる環境が整っている。

高台に設けられた展望デッキからは、360度に広がるお茶畑を一望できる。デッキには記念撮影用のスマホスタンドもあり、茶畑をバックに写真を撮れるのがうれしいポイント。ただし自販機などはないため、特に夏場の暑い時期に訪れる際は飲み物の準備を忘れずに。

茶畑で朝の新鮮な空気をたっぷり吸い込み、次なるカフェ「フタマタセコーヒー」へ向かう……はずだったが、まさかの臨時休業。急きょ予定を変更し、20km先の宇部市内まで一気に走り抜けることにした。
宇部新川駅と“エヴァの街”

宇部市の中心となる宇部新川駅に到着。実は宇部市は、アニメ「エヴァンゲリオン」の監督を務めた庵野秀明の出身地として知られている。


宇部新川駅前には、エヴァ初号機の左手をモチーフにした彫刻「宇宙の中心でコシを下ろしたけもの」が設置されている。制作を手がけたのは、宇部市の鉄工会社、株式会社 宇部スチール。地面から初号機の左手が突き出てきたかのようなデザインで、思わず足を止めて見入ってしまう存在感だ。

その手の下には、さりげなく四角い物が置かれている。よく見ると、それは主人公の 碇シンジ が愛用していたカセットテーププレイヤー。細部まで作品への愛が感じられ、知っている人ほど思わず目が留まるポイントだ。

せっかくなので、宇部新川駅のホーム内も見学することにした。この駅は、映画『シン・エヴァンゲリオン劇場版』のラストシーンに登場した場所として知られている。

宇部新川駅3番ホームが、あのラストシーンで有名な場所。 ……と聞くと「すげー!」と言いたいところだが、実はけんたさんも私(ツッチー)も、まだ映画を観ていなかったので、そのすごさをその場では実感できず。「これは帰ってから観るしかないね」と話しつつ駅をあとにした。

ちなみに宇部新川駅では、入場券を購入すると駅員さんが切符にスタンプを押してくれるのだが、その印がなんと エヴァ初号機の横顔という特別仕様。思いがけないところにも“エヴァ推し”が仕込まれていた。
不思議な踏切を目指す

宇部市内におもしろい踏切があると事前に調べていたので、せっかくならと向かってみることにした。場所は駅から約3km。宇部の工業地帯の中にあるということで、そのまま自転車で走り出す。

宇部工業地帯は、化学・セメント・鉄鋼などが集積する重化学工業地帯。広い敷地に工場やプラントが立ち並び、独特のスケール感がある。街中とはまったく違う風景が続き、走っているだけでも印象に残るエリアだ。

しばらく走ると、見慣れた踏切が現れた。しかし、そこに線路は見当たらず、あるのは道路だけ。遮断器が下りたあとに通過したのは電車……ではなく、超大型のトラックだった。

実はこの踏切が設けられている道路は、宇部市から美祢市までを結ぶ全長約32kmの私道「宇部伊佐専用道路」。UBE三菱セメントが保有し、日本最長の私道として知られている。伊佐鉱山で採掘された石灰石や、セメント半製品のクリンカーを専用トレーラーで運搬するために使われている道路だ。

珍しい踏み切りを見て興奮し、再び走ってきた道を戻りランチスポットへ向かう。改めて工業地帯の道路を走っていると工業地帯の無骨な建造物を庵野監督は幼少期の頃に見たことによってエヴァンゲリオンの世界観ができたのではないかと思ってしまう。
市場の名物食堂でランチ

ランチで訪れたのは、宇部魚市場にある「魚市場食堂」。その名のとおり、市場の敷地内に店を構える食堂で、地元の人や市場関係者にも親しまれている一軒だ。

キッチンカウンターに貼られたメニューは、どれもおいしそうで目移りしてしまう。しかも価格はリーズナブル。これは迷うな、と思いながらしばし真剣に2人で悩む。

料理を待つあいだ、店内の中央に置かれた灯油ストーブが冷えた体をじんわり温めてくれる。市場関係者や地元の人たちでにぎわうなか、観光客らしき姿もちらほら。これはもう、当たりの予感しかしない。

迷った末に選んだのは、さんまデラックス定食。今や高級魚の仲間入りをしたさんまだが、ほどよい苦みと大根おろしの組み合わせが抜群で、ご飯が止まらない。刺身も驚くほど新鮮で、これは大当たり。さらに+300円でぶりかまも追加して、気づけばちょっと贅沢なランチになっていた。
ときわ公園とロンギヌスの槍

ランチを終えて次に向かったのは、ときわ公園。広大な敷地を誇る宇部市を代表する公園で、園内には湖や遊歩道、動物園、彫刻作品が点在している。自然とアートがゆるやかに混ざり合う気持ちのいい場所。

ちなみに園内の駐輪場にはバイクスタンドも完備されており、サイクリストにとってはうれしいポイント。安心して自転車を停められるのは、立ち寄りスポットとして評価が高い。
この公園に来た目的は、ここでもやはりエヴァンゲリオン。園内の池を渡っていくと、前方に見えてきたのは、作中で欠かせないあの武器。

そう、ロンギヌスの槍。
全長は約7メートルもあり、池の脇に突き立つその姿は強烈な存在感を放っている。ロンギヌスの槍は、新世紀エヴァンゲリオンの作中で、特別な武器として登場する重要なアイテム。鋳鉄製のこの槍は、地元企業の宇部スチールが製造。製造過程の映像を見てから現地で実物を目にすると、その迫力と重みがよりリアルに伝わってくる。(宇部スチールのYouTube動画)

公園でロンギヌスの槍を見ていたら、なぜか「ロンギヌスの槍を食べたい…」という気分に?ということで、公園の近くにあるパン屋 小麦堂Bagelsへ移動することにした。

ベーグル専門店のこちらに足を運んだのは、宇部市のプロジェクト「まちじゅうエヴァンゲリオン」で、エヴァ関連の商品が販売されていると知ったから。店内に入ると、焼きたてベーグルの香りがふわっと広がり、自然と気持ちがゆるむ。

お目当ての「ロンギヌスの槍」パンを無事発見!想像していた以上に大きく、しかもフランスパンなのでしっかり固め。これなら簡単には折れなさそうだ。サドルバッグに収め、近くのコンビニでコーヒーを買って、セットで味わうことにした。

コーヒー休憩を終え、次なるスポットへ。大通りを避け、海沿いの道をのんびり走っていく。堤防の切れ間からは、穏やかな瀬戸内海がふっと姿を見せる。
日本のウユニ塩湖、キワ・ラ・ビーチ

キワ・ラ・ビーチは、干潮時に幅約2.0km、奥行き約700mの砂洲が現れる。風のない日は潮溜まりが鏡のようになり、写真愛好家の間では日本の「ウユニ塩湖」とも呼ばれている。

ちょうど立ち寄った時間は引き潮。遠浅の海に、美しい砂浜がはるか先まで続いていた。潮が引いている時間帯なら、驚くほど沖のほうまで歩いて行けるのも、この場所ならではの魅力だ。今回はクリートだったため、砂浜を歩くのはお預け。

日本の「ウユニ塩湖」とも呼ばれる景色を堪能したあとは、ゴールとなる新山口駅へ。残りは約15km。旅の余韻を感じながら、最後の区間を走っていく。
道の駅きららあじすでひと息

途中で最後の休憩ポイントとして、道の駅「きららあじす」に立ち寄る。「あじす」とは、この施設がある地名・阿知須(あじす)から。館内にはお土産コーナーや飲食店もあり、サイクリング途中の休憩場所としてちょうどいいスポットだ。

店内には、珍しい名前の柑橘「ジャバラ」も並んでいた。強い酸味とほのかな苦みが特徴で、果汁や皮に含まれる成分が注目されている柑橘だ。かなりすっぱいが、花粉症対策になると言われているのは正直かなり魅力的。

ここにもエヴァンゲリオンとのコラボ商品が並んでいた。
その名も「ナッツ補完計画」。思わず二度見してしまうネーミングで、エヴァらしい遊び心がしっかり詰まった一品だ。エヴァを知らないひとはこちらをご覧ください。(外部サイト:animate Times)

店内の軽食コーナーで、阿知須特産のかぼちゃ「くりまさる」を使ったソフトクリームをいただく。

濃厚でなめらかな口あたりに、ほんのり広がるかぼちゃの香り。最後の補給食として、ちょうどいい。

道の駅を後にして走り出すと、あまりにも夕日がきれいで、思わず橋の上で足を止めた。一見するとエヴァンゲリオン推しのルートにも見えるが、実際に走ってみると、海や空、街の表情までしっかり楽しめるバランスの取れたコースだと気づく。こんなふうに、ふとした瞬間に立ち止まれるのも、自転車旅ならではの良さだ。

夕日に照らされながら、ゴール地点の新山口駅へ。まもなく山口の旅が終わると思うと、少し名残惜しい気持ちになる。
新山口駅でゴール

スタート地点でもあり、ゴールでもある新山口駅に到着。比較的アップダウンが少なく、全体的に平均速度は早め。ロードバイクでポイントを絞って走るにはちょうどよく、距離もしっかり走れてスピード感のあるライドだった。

今回の旅は、ゴール後に荷物を預けていたホテルアムゼ 新山口でピックアップ。その後は日帰り温泉に立ち寄り、汗を流して体をしっかり温める。

新山口駅にあるサイクルステーションで、電車輪行の準備を開始。すぐ隣にエレベーターもあり、改札口までのアクセスはとてもスムーズ。輪行派にとっては、申し分のない環境だ。

東京へ戻る新幹線では、山口名物ふぐを使用した名物駅弁「ふく寿司」と長州サイダーで軽めの夕食。ライド後のお風呂でしっかり体を温めたあとなので、4時間の移動も苦にならず、気づけば東京駅までぐっすり眠ってしまった。
走り終えて

今回の山口ライドは、走りと観光のバランスが心地よく、想像以上に充実した一日だった。工業地帯の独特な風景から、瀬戸内海の穏やかな海、街に溶け込むエヴァンゲリオンの世界観まで、次々と表情が変わるのが面白い。アップダウンも比較的少なく、テンポよく走れるのも魅力だ。まだ知らない景色やルートがたくさんありそうで、次は別のエリアも走ってみたい。そんな前向きな余韻を残してくれる旅だった。
旅のしおり
| 13:10 | 新幹線で東京駅を出発※1日目 |
|---|---|
| 17:30 | 新山口駅に到着※前泊 |
| 8:00 | 新山口駅からスタート※2日目 |
| 9:00 | 藤河内茶園に立ち寄り |
| 11:00 | 宇部新川駅に到着ターを見学 |
| 11:30 | 宇部伊佐専用道路の踏切 |
| 12:00 | 魚市場食堂でランチ |
| 13:30 | ときわ公園に立ち寄り |
| 13:45 | 小麦堂Bagelsで買い物 |
| 15:30 | キワ・ラ・ビーチに立ち寄り |
| 16:00 | 道の駅「きららあじず」で休憩 |
| 17:30 | 新山口駅でゴール |
| 18:20 | 新幹線で広島を出発 |
| 22:15 | 東京駅に到着 |









