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2025/11/19

ペダルでつなぐ、記憶と未来。福島・浜通りを走ってきた。

提供:ふくしま浜通りサイクルルート推進協議会

けんたさんと走る ふくしま浜通りサイクリングツアー

どうも、つっちーです。
“ゆるサイクリスト代表”として、今回走ってきたのは福島県の海沿い「浜通り」。秋風が少し冷たくなりはじめた頃、けんたさんから「海の幸もうまいし、スイーツも最高だよ!」と聞いて、「じゃあ行くしかないでしょ」と即答。しかし、実際に走ってみたら、想像以上に心を動かされるサイクリングツアーだった。

このツアーは「ふくしま浜通りサイクルルート推進協議会」が主催する取り組みのひとつ。太平洋沿いに広がる浜通りは、美しい海岸線と豊かな自然、そして復興へと向かう人々のエネルギーに満ちた場所。ふくしま浜通りサイクルルートのアンバサダーとして活動するけんたさんと一緒に、参加者のみんなでその魅力を全身で体感。私(つっちー)も、自転車だからこそ見えてくる“今の福島”を、この目で確かめてきました。

スタートは新地町。復興の象徴「ホテルグラード新地」から

今回のツアーの集合地点は、福島県相馬郡新地町にある「ホテルグラード新地」。ここは「ふくしま浜通りサイクルルート」の北側の玄関口となるJR常磐線の新地駅の目の前に位置するホテル。広い駐車場を備え、車でのアクセスはもちろん、電車で訪れるサイクリストを迎え入れる拠点にもなっている。

この新地町は、2011年の東日本大震災で震度6強の揺れに見舞われ、最大で波高9.3メートルを超える津波に襲われた。町は大きな被害を受けたが、常磐線は内陸へとルートを移し、2018年12月に運転を再開。少しずつ、復興の歩みを進めてきた。

前日までの大雨が嘘のように、ライド当日の朝は雲の切れ間から柔らかな陽ざしが差し込む。ホテルの部屋の窓からは、常磐線の線路と、その向こうに広がる太平洋を望むことができる。

朝早くから東京や神奈川など、遠方から7名の参加者が集合。ホテルのエントランス前には、出発を前にした少しの緊張と期待が入り混じった空気が漂う。初対面の参加者も多く、最初はやや硬い雰囲気のなか、けんたさんの明るい笑顔と声かけで、次第に場の空気がやわらいでいく。これぞけんたさんマジック!

今回のコースは、新地町を出発し、太平洋に面した福島県東部の「ふくしま浜通りサイクルルート」を南下して双葉町へ向かう、約70キロのルート。

ガイドをしてくれたのは、いわき市四倉の「颯サイクル」木村店長。地元サイクリストも一緒に走ってくれる心強いチーム。 今回はサポートバスも帯同する安心プラン。出発前には木村店長がルートや注意点を丁寧に説明。地元目線のブリーフィングで、スタート前から気分がぐっと高まる。

復興を感じる町、新地から出発

朝9時、ホテルグラード新地をスタート!小雨がちらつき、気温は15度ほど。肌寒いけれど、みんな元気いっぱい。「きっと途中で晴れるはず!」――そんな期待を胸に、ライドスタート!。

走りはじめてすぐに気づいたのは、道路のきれいさ。 震災後に整備された道は路面がなめらかで走りやすく、各地にランナバウト(環状交差点)も設置されていた。停電時でも交通を維持でき、安全面でも優れているこの仕組み。そこには、震災の教訓を活かした地域の工夫と前向きな姿勢を感じる。

最初の立ち寄りスポット「浜の駅 松川浦」

スタートから約8キロ、最初の立ち寄りポイント「浜の駅 松川浦」に到着。新鮮な海の幸や名物グルメがずらりと並び、朝から地元の人たちで大にぎわい。まさに“海辺の台所”という言葉がぴったりの場所。

浜通りアンバサダーでもあるけんたさんにとっても、ここはお気に入りの場所。来るたびに「つい買いすぎちゃうんだよね」と笑いながら、あれこれとお土産をチェックしていました。

けんたさんのイチ押しは、松川浦産の青のり(あおさ)。濃厚な磯の香りがたまらなく、お味噌汁に少し入れるだけで味がぐっと深まります。しかも軽いから、お土産にたくさん買っても荷物にならないのがうれしいポイント!

潮風を感じて走る「大洲松川ライン」

走り出すと、道沿いには地層がむき出しになった場所も見えてくる。このあたりは双葉断層や畑川断層など、活断層が通る地域なんだそう。自然の力を感じる景色。

ここからは「大洲松川ライン」へ。約5kmのまっすぐなフラットコースで、左右には太平洋と青のりの養殖棚が広がります。潮風を感じながら走っていると、気づけば青空が顔をのぞかせていた。

交通量も少なく、とにかく走りやすい!この日は追い風(北風)に背中を押されるように、みんなそれぞれのペースで快走。フラットな道を気持ちよく流す時間は、まさにサイクリングの醍醐味。

甘いひととき「cafe工房わたなべ」

浜の駅から約30キロ走り、次の目的地「cafe工房わたなべ」に到着!地元で人気の洋菓子店「菓詩工房わたなべ」が、2025年4月にオープンした話題のカフェです。地元サイクリストのあいだでも“立ち寄りたいスポット”として注目されている。

「おとぎの国」をコンセプトにした店内は、かわいい動物モチーフがあちこちに並ぶメルヘンな空間。中央には大きな木がそびえ、まるで森の中にいるような雰囲気。

ケーキとコーヒーをいただきながら、ほっとひと息。味はもちろん文句なしの美味しさ!サイクリングの途中にケーキ&コーヒー。この組み合わせはやっぱり最強!。

けんたさんを囲んで、自転車談義に花が咲きます。これまでのライドの思い出や、普段どんな場所を走っているのかなど、話が尽きない。おいしいケーキとコーヒーを前に、自然と笑顔が広がるひととき。

ケーキを食べ終えた一行は、隣の「菓詩工房わたなべ」本店へ。 ショーケースをのぞくと、なんと「冷やし中華」や「天津飯」といった不思議な名前のスイーツがずらり! 実はどれも洋菓子で作られているという遊び心いっぱいのデザート。

けんたさんおすすめの「天津飯」を食べてみたかったけれど、自然解凍に1〜2時間かかるとのことで今回は断念…。 次に来たときはぜひリベンジしたい!

ハロウィン限定のケーキも販売していたので、せっかくだからと“目玉ケーキ”をチョイス。その名の通り、ムースの真ん中に大きな目玉がドーン!味はとってもおいしいのに、つい見た目が気になって素直に「おいしい!」って言えない不思議なケーキ。

プロの技も見どころ!?パンクトラブルも思い出に

休憩を終えて、再び浜通りを南下。 小さな丘はあるものの、基本的にはフラットで走りやすい道が続く。快調に進んでいると、参加者のひとりがまさかの両輪パンク。今回は頼れるメカニックさんが帯同しているので、すぐに修理完了!待っている間も、みんなでプロの技を見守るちょっとしたエンタメタイム。

浪江町へ。震災遺構「請戸小学校」を訪ねて

ツアーもいよいよ中盤。 スタート地点の新地から約50kmを走り、浜通りの中央に位置する浪江町へ到着。ここでは、震災遺構として残されている「請戸小学校」を見学。 津波の被害を受けながらも、当時の姿のまま保存されており、震災の記憶を今に伝えている。

今回は特別に、語り部の方から当時の様子を聞くことができた。津波が迫るなか、先生たちはすぐに子どもたちを避難させ、近くの高台へと誘導。地域住民との連携もあり、児童82名全員が無事に避難することができた。

校舎の中は、津波を受けた当時のままの姿で保存されている。壁や天井は剥がれ落ち、折れ曲がった柱がそのまま残る光景に、言葉を失ってしまう。

壁の時計は、津波が襲った15時37分を指したまま止まっている。津波の映像は何度も見たことがあるのに、実際に被害を受けた建物を目の前にすると、その重みはまったく異なる。時間が止まったままの校舎を前に、津波の恐ろしさと、その現実の大きさを改めて実感。

震災直後、学校にいた児童82名が全員無事に避難できたのは、奇跡ではなく、先生たちの冷静な判断と地域の人たちとの連携があったからだ。語り部の方のその言葉が、強く心に残る。日頃の備えと人のつながりの大切さを、改めて感じる時間だった。

請戸小学校での見学を終え、再び自転車にまたがって街の中心部へ。この日は道の駅なみえで「浜フェス」が開催されており、会場にランチを食べに向かう。少しずつ日常の賑わいを取り戻す街の様子に、どこかほっとした気持ちになる。

浜フェスで出会った笑顔と地元の味

「浜フェス」とは、地元のグルメや特産品、手作り雑貨などが並ぶ地域イベント。昨年は東京で開催されていたが、今年(2025年)は福島県浪江町での開催。地元の人たちの笑顔や屋台のにぎわいに包まれ、街全体が明るいエネルギーで満ちていた。

会場には、地元企業や名産品を販売するブースがずらりと並ぶ。子ども向けの縁日コーナーもあり、家族連れの笑い声があちこちから聞こえてくるほどの盛り上がり。

ステージではトークショーやパフォーマンスが行われ、終始にぎやかな雰囲気。翌日には、けんたさんも「ふくしま浜通りサイクルルート」の魅力を紹介するトークショーに登場し、会場を盛り上げていた。 ※写真はツアー翌日のトークショーの様子

ツアー当日のランチは、地元名物のなみえ焼きそば。太めの麺に豚肉とモヤシを合わせて鉄板でこんがりと焼き上げ、濃厚ソースをしっかり絡めた一品。香ばしい香りともちもちの食感がたまらなく、走ったあとの体にしみわたるおいしさ。

「帰還困難区域」境界線へ

ランチを終えて、次の目的地は、双葉町にある「帰還困難区域」の境界線へ。 食後の満足感を胸にペダルを回しながらも、自然と気持ちが引き締まる。高い堤防の上を走ると、眼下には静かな海と波の白いライン。遠くまで続く堤防の上に、自転車の列が小さく連なり、どこか非日常的な光景に見えた。

堤防の地面には「ここから帰還困難区域につき立入禁止」と書かれた赤いライン。この先は、福島第一原発の影響で今も立ち入りが制限されているエリア。

境界線付近は、双葉町海水浴場としてかつて賑わっていた場所。今は静かな海風が吹き抜けるだけで、当時の面影をそっと感じさせる。マリンハウスふたばの時計も、津波が到達した15時37分で止まっていた。

津波だけでなく、この福島県双葉町の海岸沿いは原発事故の影響によって、今も人が住むことができない。その現実を目の当たりにし、胸の奥が少し重くなる。

最後に休憩も兼ねて近くにある「東日本大震災・原子力災害伝承館」にも立ち寄った。ここは、震災と原発事故の記録や教訓を次の世代へ伝えるために設立された施設。被災当時の写真や映像、住民の証言、そして復興へ向けた歩みが丁寧に展示されている。

敷地内には、津波によって大きく変形した消防車も展示されている。「車の形がここまで変わるのか…」と、思わず息をのむほどの衝撃。この日はスケジュールの都合で館内の詳しい見学はできなかったが、次に福島を訪れるときは、時間をかけて見学したいと思った場所。

双葉町を彩るアート「FUTABA Art District」

伝承館のある双葉町では、街のあちこちにカラフルなウォールアートが描かれている。 これは「FUTABA Art District」というプロジェクトで、原発事故によって全町避難を余儀なくされた双葉町を、アートの力で元気づけようと始まった取り組み。

発起人は双葉町出身の料理人・髙崎丈さん。 壁画アートカンパニー「OVERALLs」とともに、町中の建物に希望や再生をテーマにした作品を描いている。地震で倒壊したり、解体された建物もあるが、今も多くの壁画が街を彩り、訪れる人の目を楽しませている。

震災後、使われなくなった双葉町の旧図書館の壁面に大きな“ダルマ”が描かれている。このダルマは、双葉町の郷土玩具「双葉ダルマ」をモチーフにしたもの。「何度倒れても起き上がる」――そんな復興への思いが込められている。

ゴールは双葉駅前。コーヒーで締めくくるひととき

ツアーのゴールはJR双葉駅。最後に立ち寄ったのは、駅前にあるコーヒースタンド「open roastery Alu.」香ばしいコーヒーの香りに包まれながら、参加者同士で今日のルートや印象に残った景色の話で盛り上がっていた。ウォールアートを背景に、走りきった満足感と心地よい疲れがじんわりと広がるひととき。

ゴールの双葉駅からは、サポートバスでスタート地点の「ホテルグラード新地」へ。なんだかんだで約80kmを走りきったあとの心地よい疲労感に、シートの柔らかさがなんともありがたい。

温泉と笑顔の打ち上げ

バスで「ホテルグラード新地」に戻ったあとは、温泉で汗を流してリフレッシュ。そして、お待ちかねのけんたさんとの宴会タイム!今日のライドを振り返りながら、自転車談義に花が咲きます。笑い声と乾杯が飛び交うなか、あっという間に楽しい時間が過ぎていく。

走って感じた、浜通りの今

今回のライドツアーでは、地元の海の幸やスイーツを味わいながら、浜通りの自然と人の温かさを全身で感じた。自転車で走るからこそ見えてくるのは、地形の“フラットさ”――どこまでも広がる穏やかな風景の裏に、津波の際に逃げ場が限られていたという現実があった。

また、震災の爪痕を自分の目で見ることで、人々が体験した“逃げ場のない恐怖”や“日常が一瞬で失われる現実”が、静かに胸に迫ってくる。そして、それらを語り継ぎ、未来へとつなぐことの大切さを改めて痛感した。 一方で、街に描かれた壁画アートには、「もう一度この故郷を元気にしたい」という強い想いが込められている。その色と力に触れるたび、ここで生きる人たちの希望と誇りを感じた。

震災の跡地をただ見るだけでは、きっと気持ちは沈んでしまう。けれど、サイクリングで風を受けながら走ることで、そこに“前へ進む力”を感じられた。ペダルを回すたびに出会う景色、言葉、そして人。それらすべてが、復興の“今”を伝えてくれる。 浜通りは、過去を抱きしめながら、確かに前へ進んでいる。その姿を、もっと多くの人に知ってほしい――そんな思いを胸に刻んだツアーだった。

【ふくしま浜通りサイクルルートの詳細】

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