能登半島2泊3日の旅 1日目

なぜいま、能登を走るのか
2024年1月の能登半島地震。テレビやインターネットで報じられる現地の状況に、心を痛めた方も多いのではないだろうか。サイクリストの皆さんの中には、「いま、能登はどうなのだろう?」「自転車で訪れても良いのだろうか?」と、複雑な思いを抱えていた方もいるはずだ。
今回、Discover Rideは自転車旅ブロガーの神楽坂つむりさん(通称:つむりさん)のアテンドのもと、けんたさんと共に、能登の「いま」を自分たちの目で確かめる2泊3日の旅に出かけた。そして、私、つっちーも、もちろん同行している。
このレポートでは、動画では伝えきれなかった現地の空気感、路面のリアルな状況、そして能登が持つ変わらぬ魅力を、旅の時系列に沿って詳細にお伝えする。けんたさんのポジティブな視点と、私の食への探求心、そしてつむりさんの熱い語りが織りなす、能登の旅の記録である。
輪行で向かう能登のスタート地点

旅のスタートは新幹線の大宮駅。早朝の澄んだ空気の中、愛車を輪行袋に収めて金沢へ向かう。金沢駅では、大阪から電車輪行でやってきた神楽坂つむりさんと合流。久しぶりの再会に、近況や今回のルートの話で自然と会話が弾む。特急「かがり火」に乗り換えて揺られること1時間、ライドのスタート地点である和倉温泉駅を目指す。

久しぶりの再会で会話が弾み、あっという間に和倉温泉に到着。つむりさんとはサイクルモードで面識はあるが、一緒に走るのは今回が初めて。今回のルートは、能登を何度も訪れているつむりさんにすべてお任せ。

和倉温泉駅に到着すると、駅のロータリーで手際よく輪行を解除。今回の旅は、宿泊用の荷物と輪行袋をすべてバイクに積むバイクパッキングスタイル。身軽な装備で、奥能登を時計回りに巡り、最終的に穴水駅へ戻るワンウェイの行程が、いよいよここから始まる。
和倉温泉のいま

お昼前にライドスタート。初日の目的地・輪島市を目指す。3月中旬の能登は気温2〜10度と冬の数値だが、日差しもあり体感は15度ほど。真冬装備では少し暑く感じるコンディション。

まず向かったのは、七尾市・和倉温泉の中心街。加賀屋をはじめ、全国的にも知られる老舗旅館が立ち並ぶ、日本有数の温泉地だ。震災前は多くの観光客で賑わっていたが、現在は震災の影響で多くの施設が休業中。移転に伴う解体工事も進んでいる。

温泉街の中心部はいまは人影もまばら。和倉温泉の象徴である「加賀屋」も解体予定となっているが、西へ約550mの敷地に新たな旅館を建設し、2026年冬の再開を目指している。再建とともに、再び賑わいが戻ることが期待される。

ライド途中なので温泉には入れないが、訪れた証として湯元の広場で湧き出る温泉に触れてみる。休日には温泉卵を作りに来る人もいるというこの場所では、静かな中にも日常の営みが感じられ、少し心が和む。

街のいたるところで旅館を含めた建物の解体が進み、復興作業にあたる車両やトラックが目立つ光景は、ニュースで見る風景とは違い、現地で目にするからこそ、復興がまだ道半ばであることを強く実感させられる。

和倉温泉を後にし、私たちは能登島大橋を渡り、次のエリアへと進む。被害の光景に気持ちは沈みがちだが、今回の旅は現状を見つめつつも、前向きな部分にも目を向けると決めていたので、いつものDiscover Rideのテンションで走り出す。

能登島大橋の景色に思わず足を止め、橋の上から海を眺める。つむりさんによると「冬の能登でここまで晴れるのは珍しい」とのこと。風もなく波も穏やかで、まさにサイクリング日和。

後から調べると、石川県には「いしかわ里山里海サイクリングルート」があり、平成28年から整備が進められている。交通量は少なく、適度なアップダウンもあり、率直に走りやすい環境だと感じた。今回はそのルートをベースに走る。
七尾湾を望むカフェでランチ

初日のランチは、けんたさんチョイスの「mucoco」へ。七尾湾を見下ろす高台にある一軒だ。震災の影響で営業している店は限られているため、事前に営業状況を確認しておくのがおすすめ。

ワンオペのため提供まで少し時間がかかることもあるが、テラスのハンモックに揺られながら七尾湾を眺めて待つ時間は、心地よいひととき。景色と合わせて、ゆったりとした時間を楽しむことができる。

食事はオムライスかパスタから選べる。今回は看板メニューのオムライスを注文。野菜たっぷりで満足感のある一皿に、食後のコーヒーも楽しむ。パフェも気になったが、先を考えて今回は見送り。ランチを終え、次の目的地へ。

次に向かうは、つむりさんが立ち寄りたいと熱望した、のと鉄道の「西岸(にしぎし)駅」。どんな駅かと聞いてもはっきりした答えはなく、期待を膨らませながらペダルを漕ぐ。
アニメの聖地「西岸駅」でテンション爆発

西岸駅に到着。外観はどこかかわいらしい無人駅だが、到着するなりつむりさんのテンションが一気に上がる。聞けば、アニメ『花咲くいろは』に登場する「ゆのさぎ駅」のモデルになった場所とのこと。

つむりさんとのテンション差を感じつつ駅舎へ。中にはアニメのポスターやファンの思い出ノートが並び、「花咲くいろは」ファンにとっての聖地のひとつとなっている。

正式名称は「西岸駅」だが、ホームには作中の駅名「ゆのさぎ」の看板も設置されている。アニメを知らないと少し戸惑うが、それも含めてこの駅ならではの特徴。

つむりさんから、この駅での印象的なシーンとして「到着する列車に乗り込む場面」が有名と聞く。せっかくなので、アニメ未視聴ながら雰囲気だけ再現してみることに。

つむりさんは14年前にもこの駅を訪れており、駅舎にある思い出ノートに当時の書き込みがないか探してみる。しかし該当するノートは見つからず、今回は確認できなかった。

普段とは違う視点での立ち寄りが新鮮。知らなかった作品でも、実際に訪れると興味が湧いてくる。つむりさんも満足したところで、再び走り出す。
穴水で「すしべん」休憩

中間地点となる穴水町(約30km地点)に到着。最終日はここ穴水駅がゴールとなり、ライド後はのと鉄道に乗って輪行で帰路につく予定だ。

休憩がてら穴水駅のお土産コーナーで補給食として「塩キャラメル」を購入。能登は、日本で唯一残る伝統的な「揚げ浜式製塩」で作られる天然塩が有名な地域なのだ。

穴水の街中で休憩がてら立ち寄ったのが、地域のスーパー「すしべん」。石川県で展開するチェーンで、ラーメンやうどんを店内で注文してそのまま食べられるほか、手作り総菜も並び、地元に親しまれているお店だ。

補給がてら、揚げたてのカキフライをイートインでいただく。1個100円ほどでこのクオリティはかなりリーズナブル。ペットボトルやお菓子も揃い、サイクリストにとって補給ポイントとしても非常に使いやすいと感じる。しっかり補給を終え、後半戦へと向かう。
復旧の最前線を抜けて輪島市内へ

穴水から県道1号を北上し、輪島市を目指す。途中の熊野トンネル(三井側)では、山肌一面をコンクリートで補強する光景が広がる。地震で崩れかけた斜面の復旧工事(工事の様子はこちら)で、輪島へつながる重要なルートのため、作業が急ピッチで進められていることが伺える。この辺りは、動画では一瞬で通り過ぎてしまうかもしれないが、実際に走るとその規模に圧倒される。

熊野トンネルを抜けると、輪島市までは下り基調。目の前に広がる夕景が印象的で、走りながら自然と気持ちも軽くなる。ゴールに向けて、最後は気持ちよく走りきれる区間だ。

輪島市内に入り、「道の駅 輪島 ふらっと訪夢(ホーム)」に立ち寄る。かつては鉄道の終着駅(2001年まで)だった場所で、廃止後に道の駅として再整備された。現在は観光案内所や売店、飲食店が入る拠点となっている。

建物の間にはテントのような設備が設置されており、調べてみると、短時間で設営できるウレタン製の簡易住宅「インスタントハウス」とのこと。道の駅にあるものは事前予約・無料で利用でき、宿泊や打ち合わせスペースとしても使えるそうだ。

輪島市内に近づくにつれて、震災による路面のひび割れが増え、走行には注意が必要だった。特に、耐久性のある太めのタイヤ(30C以上)だと安心して走りやすいだろう。

道路から浮き上がったマンホールが各所で見られ、路面の復旧がまだ途中であることがうかがえる。
輪島朝市跡地の現状

輪島市の中心部に到着し、宿へ向かう前に日本三大朝市のひとつとして知られる「朝市通り」へ立ち寄る。震災による火災の影響で元の場所では営業していないことは事前に知っていたが、実際に訪れるのは今回が初めてだ。

ニュースなどで写真を見たことはあったが、実際に訪れると、震災に伴う大規模火災で焼失し、ここに日本三大朝市があったとは思えない光景が広がっていた。震災前を知るつむりさんも、その変化に言葉を失っていた。

輪島朝市があった場所を前に、けんたさんとつむりさんが言葉を交わす。けんたさんと私は震災前の様子を知らず想像しきれないが、以前の姿を知るつむりさんにとっては、強く印象に残る光景だったと思う。

気を取り直して、夕日を見に市内の端にある「鴨ヶ浦」へ向かう。途中、以前は通れた道が崖崩れで完全に塞がれており、輪島市内の各所に地震の影響がいまも残っていることを実感する。自然の猛威を改めて感じさせられる。
夕景と輪島市内の風景

鴨ヶ浦には行けなかったが、迂回して袖ヶ浜へ。そこからは美しい夕日を眺めることができた。震災の影響を感じる景色が続く中でも、この風景に触れることで気持ちが少し整う。改めて、自転車で旅をする価値を感じられる時間となった。

近くの丘に上ると、輪島市内を一望できる。奥には先ほど通ってきた輪島朝市の跡地が広がり、住宅街でも震災の影響によるものか、更地が目立つ。沈みゆく夕日が、まるで能登の復興への希望を照らしているかのようだった

夕日を見終え、あたりが薄暗くなり始めたところで、本日の宿「うめのや」へ向かう。
ゲストハウス「うめのや」と極上の焼肉

無事に「うめのや GUESTHOUSE」に到着。今回は男旅ということもあり、コスパ重視でゲストハウスを選択。輪島市内は震災の影響で営業している宿が少なく、復旧作業員の利用も多いため満室になりやすい。早めの予約がおすすめ。

「うめのや GUESTHOUSE」は、築70年余りの町家をリノベーションした宿。落ち着いた雰囲気で清潔感もあり、エントランスには市内のおすすめ店舗MAPが並び、到着してすぐに楽しみが広がる。

今回宿泊したのは2段ベッドのドミトリータイプ。カーテンで仕切られており、プライバシーも確保されていて快適に過ごせる。

自転車は、宿のすぐ隣にあるガレージが利用可能。電動シャッター付きで広さも十分あり、安心して保管できる環境が整っている。

チェックイン後は、まずお風呂へ。ゲストハウスから徒歩約10分の「輪島KABULET」内にある三ノ湯・七ノ湯へ向かう。源泉かけ流しの温泉で、「うめのや GUESTHOUSE」宿泊者は無料で利用できるのもありがたい。

塩分濃度の高い温泉にしっかり浸かり、疲れをリセット。けんたさんとつむりさんもすっかりリラックスした様子。

お風呂のあとは食事へ。3人で向かったのは、ゲストハウス向かいの焼肉「登久新」。

能登といえば魚のイメージだが、空腹には勝てず、満場一致でガッツリ系の焼肉とビールに。

「そうなんです。我々はこの瞬間のために走っているわけです」と、けんたさんの言葉に深く頷く。
走ることで深まる土地への理解

というわけで初日は半日ライド。震災の爪痕を目にしながら走る中で、街ごとの被害の違いや道路の復旧状況などを実際に体感できる一日となった。一方で、能登らしい山と海の景色もしっかり楽しめ、これまでの自転車旅とは異なる印象が続くライドでもあった。現状を知りながら走ることで、この土地への理解も深まる。
しっかり補給を済ませ、2日目に備えて早めに就寝。翌日はどんなルートが待っているのか、期待しながら体を休める。
旅のしおり
| 7:40 | 大宮から新幹線で金沢へ |
|---|---|
| 10:00 | 金沢駅で特急に乗換 |
| 11:00 | 和倉温泉に到着 |
| 11:30 | ライドスタート |
| 11:45 | 和倉温泉街に立ち寄り |
| 13:00 | muucocoでランチ |
| 14:45 | 穴水駅に立ち寄り |
| 15:30 | 八幡のすしべん 穴水此木店で休憩 |
| 16:30 | 道の駅「ふらっと訪夢」に立ち寄り |
| 18:00 | 「うめのや GUESTHOUSE」でゴール |










