2025/09/08
東北の里山で非日常を体験 グラベルクラシックやくらいレポート
グラベルクラシックやくらいで再び挑戦!
今年5月、世界最高峰のグラベルイベント「アンバウンドグラベル」を走り終えた私(つっちー)は、正直「もうグラベルはお腹いっぱいだな…」と思っていた。ところが!そんな矢先に、けんたさんから再びグラベルイベントのお誘いが。
そのイベントとは、8月30日(土)・31日(日)に宮城県加美町で開催された「グラベルクラシックやくらい」。
今年で3年目を迎えるこの大会は、薬萊山(やくらいさん)の周辺に広がる豊かな自然を生かしたルートを舞台に、日本初の「UCIグラベルワールドシリーズ」開催を目指す注目のイベントだ。
初日は本格レース!
大会初日は「レース部門」。
エリートカテゴリーでは 100km/獲得標高2500m/グラベル率62% という、数字を見ただけでゾッとするような過酷な設定。
全国から集まったトップライダーたちが、本気の走りを見せるレース部門。
今回の「グラベルクラシックやくらい」には、株式会社インターテック と パナレーサー株式会社もオフィシャルスポンサーとして参画。
大会をサポートし、安心して走れる環境づくりに力を添えてくれていた。
チームで参加のグループライド
我々が参加したのは、2日目に開催されたグループライド。
こちらは、一般参加者も楽しめる「グループライド」で、自分のレベルに合わせて2つのコースを選べる。
・ロングコース:120km/獲得標高2000m/グラベル率50%
・ショートコース:60km/獲得標高1000m/グラベル率40%
ロングはチャレンジングな本格派、ショートはグラベルビギナーでも挑戦できる内容。同じ景色を共有しながら、それぞれが自分のペースで楽しめるのが魅力。
けんたさんは気合いを入れて ロングコース(120km/獲得2000m/グラベル率50%) にエントリー。
一方の私は、自分の体力と正直に向き合った結果、無事に帰宅すること最優先とした結果、ショートコース(60km/獲得1000m/グラベル率40%) を選択。
「アンバウンドグラベル」を走ってから月日が経ってしまったこともあり、脚も気持ちも“ゆるめ”で挑みたい気分。それでもショートとはいえ、十分に登りとグラベルが待ち構えているので、決して侮れない設定です。
舞台は宮城県加美町
東京から車で約5時間。気軽なお出かけというより、しっかりと旅をして訪れる距離。
初めて足を踏み入れた加美町は、自然豊かな林道が縦横無尽に広がり、今も大きく手つかずの姿を残しています。
さらにこの地域は「世界農業遺産」にも認定されており、四季折々の表情を見せる里山文化が息づく場所。
車から自転車へと乗り換えた瞬間から、非日常のサイクリング体験が始まる。
「ここでペダルを回したらどんな景色が広がるんだろう?」とワクワクせずにはいられない。そんな理想的なロケーションに期待が膨らみます。
前夜はテント泊で準備万端
今回は、急きょ参加が決まったこともあり、宿泊はけんたさんと一緒にテント泊。
2日目の イベント会場となる「KAMIFUJI」キャンプスペースに車を停め、ルーフテントを広げて一夜を過ごしました。
会場では前夜祭も行われ、豪華な夕食がふるまわれたり、抽選会で盛り上がったりと、走る前からお祭りムード。
久しぶりのテント泊ということもあり、気分もすっかり高揚。
ついついビールを飲みすぎてしまい、気がつけば前夜祭の写真を撮り忘れていた。それほど夢中になれる楽しいひとときだった。
いよいよイベント当日
今回のグループライドには、ちょっとユニークなルールがあった。それは 1チーム3〜5名でエントリーし、チームジャージを揃えて参加すること(トップスだけでもOK)。
そのため会場には、各チームがお揃いのジャージ姿で集まり、色とりどりのウェアが並ぶ光景に。
統一感のあるチームで走ることで、自然と仲間意識が生まれ、イベント全体がより華やかで一体感のある雰囲気になっていた。
そして迎えた当日。ロングコースのスタートはなんと朝5時。まだ薄暗さが残る中での出走。
さすがアウトドアに慣れているけんたさん、夜明け前からテンション高め。パナレーサーチームのメンバーと笑顔を交わしながら、ハードなロングコースへと元気に飛び出していった。
一方で、私はというと……スタート時間がもう少し遅いショートコース組。スタート時間の6時までのんびりと朝の空気を楽しみつつ、これから始まるグラベルの一日に胸を躍らせていました。
今回、山本和弘(カズ)さんが率いるインターテック(キャノンデール)の皆さんと同じグループに入れていただき、一緒に走らせてもらえることに。
というのも、このエリアは熊が出没する可能性があるため、「必ずグループで走る」というのがルール。単独走行は禁止。
久しぶりのグループライドということもあって、スタート前は少し緊張しつつも、同時に「どんな走りになるんだろう」という楽しみも込み上げてきました。
仲間とともに走る感覚は、ソロライドにはない安心感と高揚感があります。
序盤から“これぞグラベル”の世界
カズさんのアドバイスに従って、タイヤの空気圧は思い切って 1.5bar に設定。
普段ロードバイクでは 5bar前後 が当たり前なので、感覚的にはかなり低めです。
スタート直後のアスファルト区間では、タイヤが地面にまとわりつくようにもっさりと重く感じられ、「これで本当に大丈夫かな?」と少し不安に。
しかし、わずか1kmほどでルートはすぐにグラベル区間へ。
石や砂利の上を進むと、低圧タイヤがしっかりと路面をつかんでくれる感覚が伝わってきて、一気に安心感に変わりました。
「これぞグラベル」と思える瞬間!
コース前半は、日本らしい原風景が次々と現れます。
金色に輝く稲穂のあいだを仲間と並んで走ったり、沈下橋を渡ったり。どこか旅番組のワンシーンのようで、思わず笑顔になってしまいます。
さらに里山のエリアに入ると、朝の加美町ならではの澄んだ空気が気持ちいい!
ひんやりとした風が肌をすり抜け、草木や土の匂いがふわっと漂ってきて、「ああ、走りに来てよかったなあ」と心から思える瞬間。
ただ走るだけじゃなく、五感で“ごちそう”を味わえるのも、このグラベルイベントの醍醐味です。
8kmの登り、そして山の中のオアシス
田園風景を抜けると、いよいよ本格的なグラベル区間へ突入。
しかも待ち受けていたのは、最大斜度が時折10%を超える登り坂。およそ8kmにわたって延々と登りが続きます。
前日に雨が降ったおかげで路面はしっかりと締まり、タイヤがグリップしてくれるのは心強い。
それでも長い登りはやっぱり堪えるもの。そんな中でも、カズさんの的確なペース配分に助けられ、無理なく一定のリズムを刻みながらじわじわと標高を稼いでいきました。
気づけば息は上がっているのに、不思議と前へ進む力が湧いてくる。仲間と共に登るからこそ味わえる、“苦しいけど楽しい”グラベル。
スタートからおよそ22km。
息を切らしながら長い登りを終えると視界の先に突然、カラフルなテントが見えてきます。
「やっと着いた!」
そこは山の中のエイドステーション。ロングコースの参加者とも合流するため、会場は笑顔と熱気であふれていました。
テーブルには冷やしうどん、ドリンク、エナジーバーが並び、どれも疲れた体にうれしい補給ばかり。
汗で乾いた喉に冷やしうどんを流し込むと、まるで体が一気にリセットされたような爽快感。
仲間と「いや~登りが本当にきつかったね」と笑い合い、初めて会う参加者とも自然に会話が弾む。
登ってきた苦しさが、いつのまにか楽しさに変わっていく、まさに山の中のオアシス!
エイドステーションでは、ロングコースを走っていたけんたさんと再会。
けんたさんに話しかけると、
つっちー:「ロングコースはどんな感じ?」
けんたさん:「あ。つっちー・・・自分がどこを走っていたか記憶がない」
と、遠くの空を見つめていました。
100km・獲得2500m・グラベル率62%という過酷なコースは、さすがのけんたさんでも相当ハード。
その姿を見て、改めて「ショートコースを選んで本当に正解だったな…」と心の底からホッとしました。
同じイベントでも、走る距離やコースによって全く違う体験がある。それもグラベルイベントの面白さです。
後半戦はアップダウンとスリル
エイドでしっかり補給を済ませたあとは、再び深い森の中へ。
コースは細かいアップダウンを繰り返し、ときには急で長い下り坂も現れます。
砂利や石の具合によっては、思ったラインをトレースできず、カーブでハラハラする場面も。
だからこそ「自分がコントロールできる範囲でスピードを選ぶ」ことが大切。
無理せず、心地よいと思えるスピードで下っていくのが、私にとってのグラベルの楽しみ方です。
スリルと安心感のちょうどいいバランスを探りながら走る時間は、まさに“自然と対話して
いる感覚”。舗装路では味わえない奥深さを実感できる瞬間ですね。
登りや下りでは自然とペースがバラつき、時折ゆっくりめの仲間を橋の上で待つ場面もありました。その待ち時間もまた楽しいひととき。
「この区間はどう攻める?」とか「タイヤは何を使ってる?」といった機材談義に花が咲いたり、写真を撮り合ったり。
他のグループの参加者とも自然に会話が生まれ、和やかな空気が広がります。
こうしたシーンこそ、グラベルイベントならでは。
「みんな本当に自転車が好きなんだな」と実感できる瞬間であり、イベントが“ただ走るだけではない”ことを強く感じさせてくれました。
グラベルライドにつきものなのが、やっぱりパンク。
砂利道を走る以上、どうしてもリスクは高くなります。
原因として多いのは、タイヤ内部のシーラントが劣化して乾き、小さな穴を塞げなくなるケース。
あるいは鋭い石などでタイヤの側面をカットしてしまう「サイドカット」も、グラベルでは珍しくありません。
今回も走行中にパンクが発生。
しかしそこは経験豊富なカズさん、迷うことなく的確に修理を開始。
手際よく対応し、あっという間に再スタートできてしまいました。
その頼もしさに思わず「さすがだ……」と心の中で拍手。
こうしたトラブルすらチームでクリアしていくのが、グラベルイベントの面白さでもあります。
薬萊山を望むラストシーン
ショートコース全体では、合計で3つの大きな登りをクリア。
そして迎えたラスト区間では、このイベントの名前にもある 薬萊山(やくらいさん) を正面に望む絶景が広がります。
眼前にそびえる薬萊山をバックに、白いグラベルロードを仲間と並んで駆け抜ける。
疲れも吹き飛ぶような開放感と、胸いっぱいに広がる達成感。
「これぞグラベルクラシックやくらい!」と叫びたくなるような、まさに最後のご褒美にふさわしい瞬間。
ゴールと余韻
初めて参加した「グラベルクラシックやくらい」。
私はショートコースを選びましたが、それでも十分すぎるほど満足できるライドでした。
距離は55kmと数字だけ見ると短そうですが、グラベルは舗装路の 1.5〜2倍の負荷 と言われるだけあって、達成感も疲労感もしっかり。登りを終えて辿り着いた薬萊山の絶景は、そのご褒美にふさわしい光景でした。
そして季節は8月下旬。都内では連日35度を超える猛暑でしたが、加美町は涼しい25度前後。まさにサイクリング日和の気候の中で思い切り走れたのも印象的です。
何よりも心に残ったのは、グラベルを愛する人たちの温かい空気感。
前日のテント泊から始まり、山の中を仲間と駆け抜け、補給で笑い合い、時には助け合いながら走る。その一つひとつが子どもの頃の「外遊び」の延長のようで、大人になった今だからこそ味わえる楽しさがあった。
とてもシンプル、だけど最高に贅沢な時間。
また機会があれば、必ずやくらいを訪れたい。そう思わせてくれるイベントでした。
ちなみに、けんたさんも過酷なロングコースを見事に完走。タイムは6時間40分。数字を聞いただけでも、そのハードさが伝わってきます。
ゴール後は近くの温泉施設「やくらい薬師の湯」へ直行。熱いお湯に浸かって汗を流すと、身体も心もようやく解放されていくのを感じました。
そして再び車に乗り込み、5時間かけて東京へ。体はクタクタでも、心は「また来たい」という気持ちでいっぱい。グラベルクラシックやくらいは、まさに“走って、味わって、語りたくなる”特別な一日を体験させてくれるイベントでした。
写真提供:@nobuhikotanabe
取材協力:インターテック株式会社
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